鈴木 寿一(京都教育大学名誉教授・京都外国語大学大学院非常勤講師)
DVD『PIを活用した文法指導』の制作に携わっていただいた鈴木先生に、この指導法についてのお話をうかがいました。
PIは日本人英語学習者のために開発されたのではないかと思うくらいの指導法
高校の場合、今までの文法指導というのはルールの説明、例文の提示、その後2、3度音読をして、機械的な文法問題・文法ドリルをやらせて、その答え合わせと解説、そういう指導だったわけですけれども、文法指導を4つの技能、リスニング、リーディング、ライティング、スピーキング、この4つに結びつけて行う、というのがPIの最大の特徴だろうと思うんですね。
特に、最初リスニングから始めてリーディング、それから音読を挟んでライティングやスピーキングにもっていくという、この手法、手順を使うことによって文法を生きた文法にすることができます。
TPRと同じように、中学校で学習した項目についても身についていなかったり、例えば「現在完了はhave+過去分詞で、意味は経験・継続・完了・結果だ」と、基本的な、本当の意味を指導をしていない場合が多いのですけれども、それをもう一度PIで高校で再学習をさせると、はっきりとその基本がわかってくるということがあります。
発信型の英語教育が今求められていますが、まずは受信から始め、最終的には必ず発信をさせ、そして最後は自分の考えを学んだ文法項目をを使ってアウトプットすることにもっていくのがPIによる高校段階での文法指導と考えております。
もう一つ、PIは短文レベルのリーディングやリスニングから入るので、かなり力の弱い生徒でも入っていけます。長い英文を聞き取るのは苦手だけど、短文レベルであれば聞き取れる。こういうことで学習者にまず第一歩、自信を持たせるという点で、PIは今までの文法指導と違い、音が頭の中に残りますので、これを今度リーディングした時にも音声と同時に黙読をさせますので、頭の中での音声化が不十分な生徒でも、意味を理解することができます。そのあと音読をすることによって 頭の中での音読をするということも可能になります。
全体的な底上げにもつながるということで、是非従来型の規則の説明、練習問題の答え合わせ、そして解説という、生徒があまり活動しない、受身的な授業から、読む聞く話す書くという四技能を使った文法指導をしていただくのにPIを役立てていただければと思います。
そうすることによって子供たちは、新しい文法と既習の文法の違いをわかり、かつ適切な場面で状況に応じて区別して使えるようになる。
そういうことを意識した、インプットから内在化をはかるアウトプットまでの練習を含めたものが、今回のDVDで提供したProcessing Instructionの特徴です。
高校の教員というと自分が受けて来た文法指導のイメージから抜けなくて、一歩踏み出してPIを行うのはちょっと難しいなと思われる先生が多いかと思うのですが、実際にそういう活動を行っている学校や、先生の様子、生徒の様子などの例があったら教えてください。
最初からコミュニケーションを目的にした色々なアクティビティをやるのは、なかなか日本人の学生には難しいですけれども、これは日本人英語学習者のために開発されたんじゃないかなと思うくらいの指導法でした。
過去20年ほどの間に色々な文法指導が提案されてますけれども、その文法指導の中で、一番研究が進んでいるのがPIだと思います。
2006年頃、京都府教育委員会が研究指定をしたある府立高校で新しい文法指導を模索しているというのを聞きまして、京都府教育委員会の指導主事とともに、ほぼ毎月のように私も指導に入り、そこでPIをやっていただきました。
その学校は決して京都府立の学校の中でも上位の学校ではなく真ん中より下の学校でしたが、文法指導をPIを使ってやっていただいた結果、これまでちょっと説明が進んでいくと居眠りしたり、当てられてもわかりませんと言っていた生徒たちが息を吹き返したのですね。
聞いてわかる、読んでわかる。
そういうことが実感されました。
3年間そういう研究をして、研究報告書も出ております。
それと並行して京都教育大学の大学院に入学された現職の先生方、あるいは非常勤講師をしながら勉強していたストレートマスターの大学院生たちに、このPIの指導法を実際に教材作成もやっていただいたところ、非常勤先あるいは勤務校でPIを使って文法指導をしてくださって、従来の文法指導よりも効果がある、DVDでも紹介しましたが、1つレベルの上の発展クラスに最終的には追いついたという、そういう指導事例も出ています。