杉本 義美(京都外国語大学 英米語学科 教授)
DVD『PIを活用した文法指導』の制作に携わっていただいた杉本先生に、この指導法についてのお話をうかがいました。
「どんな時に、どんな場面で使うのか」がわかるインプットを与えることが大事
PIという言葉は、まだまだ日本では馴染みのない言葉だと思います。
文法指導といえば、中学でも高校でもその時間に行う一つのターゲットに焦点をあて、それをひたすら導入または練習し、最終的に簡単なコミュニカティブアクティビティとかゲーム等を使いながら習熟をはかっていくというパターンが圧倒的に多いわけですが、これはうまいこといっているように見えて、本来そこで大事な、どんな時にどんな場面でその文法が使われるのかとか、実際のオーセンティックなシチュエーション、状況の中でその文法がどういう風に機能として働いているのかというところが、指導しないままに過ぎてしまっている、ということが往往にしてあります。
これが今、大きく日本においての文法指導の欠陥ではないかと私は考えています。
時間数が限られている中で、1つのことに焦点をあてて、それを一生懸命身につけた。ところがその時は生徒は今日の授業はわかりやすかったとか、ゲームして楽しかった、これが身についた、と思うわけですけれども1週間経つと、1週間前にやったことが、あれ?なんだったけ?と、身についていないことが往々にしてあります。
それを解決するために、もっとインプットの段階で子供達がしっかりとその場面状況を踏まえて、どういう時に使うのか、ということがわかるような文法項目、インプットをしっかり与えてやることが大事です。
その際にProcessing Instructionというのは、新しいターゲットとなる文法と、もう1つ以前習った既習の文法事項を対比させながら、両方の文法に気づかせて定着をはかっていこうという指導法ですので、復習も行いながら新しい文法項目も提供していきます。そういうことをしながら既習の文法と新しい文法との機能上の違い、または場面状況の使い方の違いを理解していくという、そういうインプットを与えるというのが、Processing Instructionの一番のポイントだと思います。
もう一つ大事なのは、そのあとに、内在化をはかるためのドリルなり音読練習なりをしていくわけですけど、その時にもきちっとしたProcessing Instructionでインプットを与えたものをベースにして、今度は、アウトプット中心のストラクチャーアウトプット、構造化されたアウトプットをドリルや音読練習を通じて習熟をはかっていく、そういう手法が非常に大事になってきます。
そうすることによって子供たちは、新しい文法と既習の文法の違いをわかり、かつ適切な場面で状況に応じて区別して使えるようになる。
そういうことを意識した、インプットから内在化をはかるアウトプットまでの練習を含めたものが、今回のDVDで提供したProcessing Instructionの特徴です。
PIはフォーカスオンフォームという形式に重点をおきつつ、その状況の中でインプットからアウトプットまでもっていくということだと思うのですが、実際に中学の先生が使われる場合、年間やるとなるとかなりの負担だと思います。例えば過去形と完了形の違いであるとか、そういうものを学期に一回やるとか、そんな形での導入でもいいのでしょうか。
はい、本DVDでは、過去形と現在完了を対応させながら、特に完了用法についてどういう時に使うのか、どういう機能があるのか、ということに焦点をあてて、Processing Instructionの例を紹介しております。
特に時制の指導においては、PIというのは非常に有効な働きをするので、ひとつのものを提示するのではなくて、既習のものと新しいもの、時間の違うものを提示して習熟を図っていくという手法に関してはこれからもっともっと注目されていったらいいなと思います。
学期に一回とおっしゃられましたが、出来れば時制に関する指導については、PIを中心とした指導を中学校で展開されていくと、今までの文法指導が画期的に変わっていくのではないかと期待しております。
「学ぶ」と「真似ぶ」という言葉がありますが、先生のDVDを真似して、まずは実施してもらえばいいですかね。
決して難しいことを言っているわけではなくて、実際にDVDを見てもらえれば「あぁ、こういうふうにすればいいのか」とお分りいただけると思います。
教壇に立って一年目の先生でもできますし、または今まで文法指導に悩んでこられたベテランの先生でも「こういう方法があるのか」と気づいてもらえると思います。
そういう意味でも、どの先生にとっても新しい視点で文法を指導してもらうためには、いいDVDであると自負しております。ぜひ活用してください。