- 安木 真一(京都外国語大学 キャリア英語科 教授)
- 杉本 義美(京都外国語大学 英米語学科 教授)
- 鈴木 寿一(京都教育大学 名誉教授/京都外国語大学大学院 非常勤講師)
日本での外国語学習環境において、音読指導は必須である
このDVDシリーズにおけるTPRやPI、またラウンド制の中にも、必ず「音読指導」が出てきます。海外の文献におけるTPRやPIでの指導の中には音読は出てきませんが、なぜこの「音読指導」が含まれているんでしょうか。
杉本:ヨーロッパ、またはラテンアメリカ等で行われている研究は、「第二言語としての英語のあり方」の中での研究が多いです。社会生活の中で英語を使う環境が結構あるんですね。
ところが日本においては、まだまだ教室内に英語の使用が限られています。
教室外で英語に頻繁に触れる環境であったら、例えば子ども達が実際にそれを聞いて真似て、または自分の思いを英語で伝える、という、そういう日常的なコミュニケーションとしての英語が使えるのであったら、それが一番いいんですけれども、日本ではそういう環境になっておりません。
教室では習ったけど、実際にそれを自分の言葉としてアウトプットする、練習する場面がない、
または習ったインプットの表現が聞こえてくる場面がほとんどない、
では、どうしたらいいんでしょうか。
放っておけば当然ながら、習った表現はその場限りで忘れてしまいます。
よく言われる「経験の円錐」※のように、実際に自分で経験したことはエピソードとして結びついて記憶として残っていくのですが、実際にアウトプットをしなければ、経験がなければ、そういう定着の場が保証されない。
※Edgar Daleが提唱した学習経験の理論を示したピラミッド
(学習内容を2週間後にどれだけ覚えているかを図式化)
だからこそ、あくまで教室内において使う英語という、特殊な言語をものにするためには、頭の中にきちっと記憶として残すための内在化をする練習が必要です。
それがまさしく音読です。
音読というのは、「TPR」と「PI」の話にもありましたように、まず音声と意味とを結びつけた後に、今度は文字を見て、文字と音声が結びついて、そこに意味が結びついていきます。
音声と意味と文字とを結びつけたものを徹底的に頭の中に入れるために、生徒自身が進んで自ら、単なるリッスンアンドリピートばかりではなくて、自分でしっかりと意味を考えながら読めるまで、音読をしていく。それによって初めて記憶に残っていく、その練習無しにしては、日本ではアウトプットがスムーズに行くはずがない。
よく、自動化しない自動化理論、という風に批判されますが、まさしく、この音読をしなくては内在化しないので自動化が進みません。だからこそ、どこの場面でもぱっと記憶から自分の英語表現を出すためには音読をして内在化を促進する必要があります
そのためにも日本において外国語環境における英語においては音読指導は必須であるといえます。
鈴木:もう一つ日本の外国語教育で音読が必要である理由は、文字言語、文字が違うということですね。
欧米で開発された外国語指導法というのは、ターゲットがだいたいヨーロッパ言語、つまりアルファベット言語です。日本人の母語である日本語は漢字とひらがなとカタカナで、アルファベット言語ではありません。
英語ではアルファベットの組み合わせで発音も変わってくる。
また、英語の場合は、発音とスペリングの対応関係が、イタリア語やスペイン語と比べると低いんですね。
そこで、やはり先ほどのお話にもありました、スペリングと音声のマッチングが必要となります。
これをやるためには、しっかりリスニングし、リスニングしながら黙読したその後に、実際に声に出して、最初はモデルについて言う練習、それからその後に、今度は自分で音声化できる、音読できる。
そういう力をつけていくためには一連のきちんとした手順を踏んだ音読指導が必要だということです。
では、その音読指導は、どんな手順で行えばよいのでしょうか。
安木:音読指導には順序があります。
最初の段階は、まず音読の前に聞いて、そして本文の内容理解をします。
内容理解をした後に音読をすることが大事です。
高度な学習者の場合、例えば通訳などの練習では一番最初に音読をすることもありますが、これは中高生には難しいでしょう。
やはり、しっかりとしたインプットをして、聞いて、それを内容理解、ラウンド制による内容理解して、その後に音読をすることが大事です。
音読の順番としては、やはり句であるとか、句は短いものから長いものへいくであるとか、詳しくは私のDVDの解説編の中でも述べていますが、それぞれ処理の水準を高めながら難しい音読へと移っていきます。
一番キーになる音読はオーバーラッピング、パラレルリーディングです。
音を聞きながら同時に文字を見て発音をするというトレーニング、これが一番やりやすいトレーニングだと私は考えています。
それから、最後に持ってくるトレーニングは、Read and Look upをおすすめします。
文字を見て顔を上げて、それによって先ほどからお二人の話にもありましたように、内在化、頭の中にしっかり音が入るようになってきます。
聞いたり読んだり、つまりインプットを与えて、気づきがあって、そしてその後で統合してアウトプット、これが欧米の流れですが、このインプットして気付いて、そしてその後に取り込む、というような活動が、日本のような環境では必要だということでまとめられるという風に思います。