英語の読み書きを学ぶ⑴ 日本の英語教育について

『ジョリーフォニックス』DVD第2弾発売にあたり、日本と英国の両方での教員経験を持つ山下桂世子先生に「英語の読み書きを学ぶこと」について語っていただきました。


山下 桂世子(やました かよこ)

(ジョリーフォニックス&ジョリーグラマートレーナー)

 

 


母語を学ぶ時と同様か、それ以上に丁寧なステップが必要?

英語の音の最小単位は日本語のものよりも小さく、日本語話者には聞こえない音があったり、似たような音があって違いが分からなかったりします。そのため、綴りもrとlを間違えたり、sまたはdとthを取り違えてしまったりします。

しかし、英語の音を明示的に学ぶことで、このミスは減らすことができます。

英単語を読み書きするためには、まずはこの小さな単位の英語の音を知ることが重要だと思っています。


国語の読み書き指導を例にしてみます。日本の小学校1年生では音声で慣れ親しんだ母語(日本語)の文字と音の関係を丁寧に指導していきます。「つ、く、し」のように一筆書きでできる文字を声を出しながら空書きをしたり、ノートに書いたりして「つ」という音は「つ」という字を使うことを指導します。そして、「く、し」と習った子どもたちは、「くつ」「くし」「つくし」と言葉を読んだり書いたりしていきます。


外国語である英語であっても同様の手法で、これよりもさらに丁寧に行うべきではないでしょうか。

もちろん、年齢によってその内容やペースは違ってきますが、小学校で英語の読み書きが入るのであれば、英語の/s/ の音はsと書く、/a/ という音はa、/t/ という音はtという文字であることを習えば、子どもたちはsatという単語を「つくし」と読むのと同じように読むことができるようになっていきます。そして、徐々に単語のかたまりを認識し、the cat, the black carというようなチャンク(塊り)を読み、そしてI see a big dog. という文を読めるようになっていくのが小学校の段階だと思います。

そして、初期の段階では子どもたちが音声化できる基本の文字(綴り)を使ったものにすることで、自分の力で読むという経験を積ませ、読み書きのスキルを身につけていくことができます。


国語でも一文字ずつ始め、そして短い言葉を読み書きしたり、文になったときには分かち書きしたりと、子どもたちが躓かないように丁寧に細かいステップを踏んで母語を身につけていきます。そして、3年生になったころには流ちょうな読みができるように指導しています。母語ですらこれだけの時間をかけるのですから、英語でも小学校の段階でこれだけのステップは必要だと思います。

別の言語に置き換えて考えてみたら、どうですか?

例えば、curryという単語を見て、

『これは「カリー」と読み、意味は「カレー」だよ、さぁ、この単語を写しましょう』

と、教室で子どもたちに指導を行います。しかし、子どもたちは、言われた通りに単語を写していても、cが何であって、そもそもこれが「カ」という音なのか、cuで「カ」の音なのかわかっていないのです。

この「単語を写す」という時間は子どもにとって、自分で考えて単語を書く時間になっているのでしょうか?

 

同じことを別の言語で行ってみましょう。

『さぁ、これはカリーと読み、意味はカレーです。写しましょう』

と言われたとき、皆さんはどうですか?

この文字を見て、「音」が浮かびますか?

音に出しながら書くことはできません。暗記が得意な人はきっと数回書けば、これがカレーだと覚えられるかもしれません。でも、全員が覚えられるわけではありませんし、覚えられた人もどの部分がどの音に対応しているか理解できる人はほとんどいないと思います。

 

これと同じことが英語教育で起きていないか、ということを考えてもらいたいと思っています。

初めて習う文字だからこそ、文字が「読める」という体験をしていくことが、小学校で英語の文字に出会う子どもたちに必要なことではないでしょうか。

初期の段階では間違えてもいい?それよりも自分で理解していくことが大事?

中学校の英語の目標では文字と音の関係の指導は入っていません。つまり、小学校までに文字と音の関係を指導しておかなければ、今後、初めて出会った単語を自分の力で読んだり書いたりすることがとても難しくなるのです。

 

特に英語は文字と音の関係が複雑な言語です。/ei/ という音には10種類の綴りがあり、英語を母語とする子どもたちにとっても、その関係を習得するのは難しいのです。

イギリスでは、子どもたちは、/ei/ という音であれば、aiという基本の綴りをはじめは習い、rain, mailなど読み書きをします。しかし、これではplayをplaiと綴ってしまいます。このとき、まだ習得していない綴りayは書けなくて当たり前ですので、作文で子どもがplaiと書いても、イギリスの学校では×にしません。ayという綴りを習った後には、playと綴れるようにしていきます。

たくさん目に触れて、耳にする単語でもこの「間違えても、いいよ。音を口に出し(sounding out) ながら自分の力で書いてみよう」という視点が日本の英語教育でも必要なのではないかと思います。


こうして、細かいステップを踏みながら読み書きに慣れさせていくことが初期の段階では必要だと考えられます。

 

そして、フォニックスという点では文字と音の関係を学びながら、さらにより複雑なルールを学びながらフォニックスのルールに沿っていない単語を読むことも学ぶのが次のステップです。ネイティブの子どもたちもこれを6年間かけて行っていきます。日本でも中学や高校で行うことが必要になるでしょう。
もちろん、単語だけを読むのではなく、文を読み、それを理解していく力、つまり理解力を育てていく教育が必要になります。

これは、丸暗記ではなく、自分で考え、理解する力を養うということです。そのためには、答えを画一的に〇×で判断するのではなく、いろんな考えを汲み取り、考え、受け入れていくようなリーディングを今後の英語教育で行う必要があると思います。


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