小中9年間を通した英語教育に先進的に取り組んできた神奈川県横浜市。その取り組みについて、横浜市教育委員会の西村先生に中学校教員向けの研修などを中心にお話しいただきました。
(2019.9)
西村 秀之(にしむら ひでゆき)
横浜市教育委員会 教育課程推進室
小学校でやってきたことをふまえ、中学校でどう活かせるか
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小学校英語の教科化を見据えて、中学校教員向けの研修内容も変わりましたか?
中学校の先生向けの研修は、これまでは全英語教員が対象となった文部科学省の委託研修と、それから横浜独自の研修として集合研修を長らく行ってきました。
小学校英語の教科化により、小学校以上に、中学校での授業改善が求められており、研修が必要となります。
一方、学校での業務過多の問題や、働き方改革等を推進していく必要があります。そこで小学校同様、オンライン研修※を取り入れ、先生方がそれぞれのニーズに応じた研修を受けられるようにしました。
苦労された点や、課題として浮き彫りになったことはありますか?
中学校も各学校から1人の方に集合研修に参加してもらい、その方が学校に戻られて教科の先生方と共有していくのですが、1人ひとりが研修を重ね実施しようとしても、校内の教科の教員間で意見が合わない、などは耳にすることはあります。
中学校も今後一人ひとりが、ということでなく、その学校の英語科として、どのような資質・能力を育みたいかをしっかり共有し、授業づくりを進めていく必要があります。
小中連携について意識されていることはありますか?
小中に関しては小中ブロックがあるので小・中学校の先生が会して英語教育について話す場面もあるのですが、私たちはその中で、しっかり授業を見合ってくれと推奨する位しか出来ていないのが現状ではあります。
これまではどちらかというと中学校の先生が小学校の先生に要求してきた部分が多いのですが、今後は逆に中学校の先生方にも小学校での取り組みを研修時に紹介するなど、意識して情報の伝達を行なっていきたいと思います。小学校でやってきたことをふまえて、中学校で活かせるか、という視点で授業づくりを考えてほしい、と今お話をさせていただいているところです。
オンライン研修をうまく活用して、例えば小学校で実際の授業をどのようにやっているのかなど、中学校の先生がそこでイメージを持てるような映像が配信できればいいなと思います。
教科書を使ったモデル授業をオンラインで配信した時には小学校の先生は勿論、中学校の先生にもしっかり見ていただいて、どのような形で小学校英語の授業が行われているのか、これまで以上に知っていただいたうえで、中学校で子供たちの力を伸ばしていってもらえるといいなと本当に思っています。
研修のカリキュラムや実施時期・実施内容についてお聞かせください。
文部科学省で決められている内容以外に、横浜独自のものとしての課題や、必要と思われるところをふまえ、年に数回の研修を行っています。
中学校ではAETを各学校1名ずつ常駐させているので、よりAETの方と共同した授業づくりというものが重要になってくると捉えており、新年度がスタートして少し経ったくらいの時期に、各学校の代表1名の方とAETと一緒に合同研修を行い、ティームティーチングについて共に考えます。
秋には、外部講師を招き、教科書や教材の活用など授業づくりについての研修を行います。
これまで取り組んできたことに対しての成果はありましたか?
文部科学省の2019年度「全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)」における中3英語の平均正答率が、県単位では神奈川県が全国1位で横浜市は政令指定都市中2位になっています。全国と政令指定都市をあわせた67自治体の中でも横浜市は2位です。
10年前から全国に先駆け、小学校1年生から「人と関わることを大事にした外国語活動」を展開してきました。中学校3年生までの9年間を通じた英語教育に取り組んできた成果が、この結果に表れていると考えています。
実際の児童生徒の姿として、英語を扱うことに物怖じせず、興味関心意欲が高まってきている様子が見受けられます。これが、横浜の英語教育の成果のひとつですね。
今後の課題や予定についてお聞かせください。
横浜では先ほどお話したように、小1から中3までの9年間を見通した英語教育というものが段々浸透してきて、意味あるものになってきていると感じています。これからはそのことに甘んずることなく、更にどのような形で良い授業を子供たちに提供できるか、どのようにしたらこの9年間に、より効果的な英語教育を展開できるか、という所を我々が模索していかなくてはいけないと思っています。
そのためには理想を言っているだけではなく、授業のイメージや年間計画の例など具体的なものを提示していく、先生方の授業力向上に資する研修を実際に組み立てていったりという所が私たちのするべき事かなと思っています。
横浜の児童生徒によりよい英語の授業が提供されるよう、またその一方で、教員の働き方改革等も踏まえながらも、それぞれの教員が研修を積んでいかれるための機会を提供していきたいと考えています。
その中で今年度から導入したオンライン研修※システムというのは、これから一つの大きなカギを握っていると思っています。
集合研修を行うのが難しい、研修したことが伝わらない、という部分も、オンライン研修を導入することによって、外国語活動、教科外国語科の授業づくりに関わる全ての教員で同じ理念・考え方を共有することができます。根底にあるものを皆で踏まえた上で、それぞれの教室で授業が展開されることを思い描いています。
今後も横浜オリジナルの授業や指導方法など色々な事を先生方と共有させて頂く事で、より「チーム横浜」が一丸となって、どの学校にいても、目の前の子どもの状況が違うにしても、同じ方向に向かって横浜の英語教育を展開していけたらいいなと考えています。
※横浜市の英語オンライン研修は、ジャパンライム株式会社の動画配信サービス(JLC OnDemand)を使用しています。
※指導者・協力者等の所属は記事掲載時点のものです。