TPR(Total Physical Response)とは?

小学校英語が教科化され、日本の英語教育が変わりつつある今、TPRについての注目度が高まっています。

弊社でも『TPRによる英語指導法』というDVDを発売していますが、制作に携わっていただいた京都教育大学名誉教授・鈴木先生へのインタビュー記事や、商品ページへのアクセス状況などからも、この指導法に対するみなさまの興味関心の高さがうかがえます。

 

そこで今回は、京都外国語大学教授・安木先生に、小学生だけではなく中高大学のスローラーナーまで有効とされるTPRとはどんな指導法なのか、詳しくお話をうかがいました。


 

安木 真一(京都外国語大学・短期大学 教授)

 

TPRとは、わかりやすく言うとどんな指導方法なのですか?

1960年代に心理学者のジェームズ・アッシャーという人が考案したTPRは、Total Physical Response(トータルフィジカルレスポンス)、全身で反応するということの略で、要するに外国語を身につけるうえで「リスニング」から入る指導方法のことです。
リスニングから入った方が外国語を習得できるという研究は以前からありましたが、その一環としてリスニングを中心に据えた指導法であり、要するに、目標となる言葉(外国語)を聞いて、体の動きを通して学びます。


例えば「Raise your right hand.(右手を挙げて)」と教師が言えば、スピーキングで反応するのではなくて身体の動きで反応します。もちろん最初は教師も動きを見せますが、だんだん学習者の方に反応させるように動いていきます。
音声、音によって体で反応するので、音声と「かたまりとして(Raise your hand)の意味」を結びつけることができます。

身体を動かすので生徒が楽しいし、忘れにくいのです。

日本では1970年代に神戸市外国語大学の河野守男先生が紹介して(前述のDVD制作に携わってくださった)鈴木先生は、河野先生から教えられたTPRを用いて、高校での授業の改善のきっかけにされたということを話されています。


先ず発話をする前に「聞かせる」わけですが、聞かせることを体で反応するというのがポイントです。

教師の方から理解度を確認することもできます。最初の段階では先生がジェスチャーを入れながらですが、最後の方は先生が指示だけして生徒だけが動くというようになっていきます。

 

TPRによる指導では、どのような効果が得られるのでしょうか?

音声によって体が動作で反応するので、音声と塊としての意味を結びつけることができますし、意味が体にしみ込んでいきます。

それから活動としても楽しいので、やんちゃな生徒にしても取り組みやすい。楽しいし(体と心が結びつくことによって)忘れにくいですよね。
DVD(『TPRによる英語指導法』)でも具体的に紹介していましたが、文法や語彙の習得などにも関連してきます。

スローラーナーと呼ばれる子達に対する実践例はありますか?

鈴木先生も昔やられていたとおっしゃっていましたが…私も長年、色々な先生方の授業を見てきましたが、良い先生の授業では、知らないうちに自分自身が体を動かしています。

動きはすごく理解を助けますよね。
私自身も高校教員時代、ちょっとしんどいクラスを持った時にTPRをやってみましたが、生徒はすごく良く動きますよね。

 

例えば以前に制作したDVD(E72-4 「1課を道筋立てて教え、アウトプットまで」でも「Sit down with your legs crossed.」足を組んだまま座りなさい、というような実践をしましたが、「with + ~」というのは高校生にとっては結構難しいんですよ。

先生が前に出て代表生徒を呼んで例を示し、私の声に合わせて動きをやってもらう。その後、見ている生徒全員で動きをやってみる。その後かなり習熟した後で板書して説明をして…というように時々使っていました。これは結構わかりやすかったと思います。
「with + ~」のように高校でも習得しにくい項目があるんですが、TPRを使った指導は非常に有効でした。

「Stand Up With your Right hand on your head.」右手を頭の上に置いて立ちなさい、この動作に合わせて生徒も最初は真似てやってみる、その後、真似はやめてやってみる。そして動作ができるようになった後で文章を出し、例文を説明して音読練習をするとか、テキストの文を確認して…と、そこから拡がっていくんですよ。そういう風にして私自身はTPRを使っていました。

どうして今、TPRが注目されているのでしょうか

小学校の先生も自然に使っていますよね。TPRだということを知らないで、本当に自然にやっている方は多いです。
中高でもTPRを使われている方はおり、徐々に広がってきていると思います。

特に小中連携に良いと思いますね。

2020年秋に行われた小学校英語教育学会(JES)全国大会でも、『小学校英語を教えるための第二言語習得論(SLA)入門』というテーマで講演されていたケース・ウェスタン・リザーブ大学の白井恭弘先生が、TPRが重要なKeyであるということを語っていました。
やはり小学校と中学校の連携、つまり小学校の先生はそういう動作をして生徒を動かすことを自然にしておられますが、学年が上に行くにしたがってそれは減ってきている、中学校から高校になれば、もっと減ってきます。

でも、TPRはどの段階でも使うことができるんですよね。特に小学校から中学校への自然な連携、中学では使っておられる先生はいても高校では全く使っていないとか、その辺りの繋がりを自然にしていく役割があるのではないかと私は思います。

第二言語習得においての助けとなる、ひとつの方法

人間には色々な知能があって、数学が得意な子は数学から、音楽が得意な子は音楽から学ぶ、論理から学ぶとか色々ありますが、身体の動きから学ぶというのがひとつあります。動きと心が結びついているから心も解放されていきますし、今、色々なところで教育が行き詰っているけれども、そういう面でもTPRはこれからの時代に一つの指標になるのではないでしょうか。

また、最初から全部TPRをやろうとすると大変なのでSmall Change、つまり授業の全て、年間の活動全てTPRをやるのではなく、まずはできるところからやってみる。
例えば、単語の導入ではスクリーン上に単語を映し、その単語を指差していくこともひとつのTPRです。


鈴木先生や黒川先生が制作されたDVD(『TPRによる英語指導法』)でもたくさんの指導例が紹介されていましたが、色々な方法があるので自分で考えても良いでしょうね。生徒を動かすことを考えればいいんです。
小学校だけではなく中高大学を含めても良いでしょう。そういう体を動かすことが授業中はあまりないのでそういう意味では、一つの助け、てがかりになるのではないかとも思いますね。


身体を動かすことっていうのは万人に共通していて受け入れやすいですよね。

例えばジャパンライムの映像を見ても、胡子美由紀先生の授業なんかでは生徒はずっと動いていますよね。やはりああいうのも、初めは胡子さんも言葉を発してなかったんじゃないかな。本当に無意識のうちに使ってます。


おそらくこれらを知られたら、皆さん使われるようになりますよ。
鈴木先生や黒川先生がずっと研究されてきたこの指導法を是非みなさんに知っていただきたいと思い、前述のDVDを企画したのですが、このDVDのように文法指導や語彙指導に体系的に結びつけて紹介しているものは少ないと思いますよ。


私が大学院の時に第二言語習得研究の第一人者である
Rod Ellis教授の英語教育の授業で、TPRをやったんです。

私がネイティブの人たちにTPRで日本語を教えたのですが、私はてっきり聞いているネイティブが良くわからない、つまらない顔をしていると思ったので、途中で辞めたんですよ。そうしたら何で途中で辞めたんだと、面白いじゃないかと言われまして。

つまり、やっていて動かないから面白くないのではと思ったんだけど、実際には体を動かしたりして楽しんでいたということがその時わかりました。


だから、まずは先生がご自身で体験してみたらいいのではないでしょうか。

きっとその効果を実感していただけると思います。


 

安木先生ご自身も、学生時代や教員時代にその効果を体験してこられたというTPR。

是非、皆さんも取り入れてみてください!

 

DVD『TPRによる英語指導法』はこちら ▼▼▼

 

また、TPRと関連性の深い指導法もあわせてご覧いただければ、より理解が深まります!

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各指導法の関連:「身体性を育てる小学校の英語指導」と「TPR」

 

日本語の氷山と英語の氷山のてっぺんを繋ぐだけの指導ではダメ!

 

元々TPRはどちらかというと年齢の低い子供向けのものだという先入観を持っている方が多かったかと思いますが、実際には中学高校でも、より高次な学習内容を扱うことができる…

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