2020年1月5日『英語教育・新春大喜利大会』が開催されました!
座長の金谷憲先生のもと「もうやめない?そんなこと」「1つだけ願いを叶えてあげると言われたら」などのお題で阿野幸一先生、太田洋先生、粕谷恭子先生、そして会場の皆様がそれぞれの立場で英語教育界のあれこれについてお話いただく新しい形式の「大喜利大会」。
豪華な講師陣が揃って色違いの衣装に身を包み、フランクな雰囲気で始まりましたが、根が真面目な先生方が集っての大喜利大会とあって、内容は後半にいくにつれ「今」のトピックスに迫った深い意見が飛び交いました。
もうやめない?そんなこと
第1部はWarm Upを兼ねて「もし、○○が英語教師だったら」「もうやめない?そんなこと」というお題が出され、まずは壇上の回答者である稲門文教流幸衛門(こうえもん)こと阿野幸一先生、東家一門家政流洋一(よういち)こと太田洋先生、東学亭小学流粕奴(かすやっこ)こと粕谷恭子先生が回答、次に会場の皆様からの発言、その反応によっては御三方が会場へ返答を返したり、その合間合間に東学亭本家憲蔵(けんぞう)こと金谷憲先生が鋭いコメントを挟んでいく…といった形式で始まりました。
「もしドラえもんが英語教師だったら」
→素晴らしいICT教材が使いこなせるでしょう(どこでもドアがあったら使用場面を提示できる、もしもボックスがあれば仮定法と直説法をうまく比較しながら指導できる)
「帯活動が帯でない(帯活動がメインになる)のはやめませんか?」
→帯活動が20分になってしまい教科書本文の扱いが短くなってしまう。生徒も帯活動は慣れているからよく動くけど、その後はおとなしくなってしまう。
「小学校でよく見られる、黒板の端に今日の授業の流れを書くのはやめませんか?」
→なくてもわかるでしょう。いや、やることの見通しが立った方が生徒は安心する。いやいや、それほど不安になることを授業でやっているの?(笑)メニューを提示するより安心する授業をやった方がいい。
…といった具合で、軽い話題であっても「なるほど」と思わされる発言が講師・会場ともに多々あがり、手探り状態だった会場が徐々に温まってきました。
なんでだろう?なんでだろう?
第2部での大きな設問は、英語教育界の「なんでだろう?」
「振り返りシートを書かせるのはなんでだろう?」
授業時間が余った時に書かせる(笑)という小学校現場の赤裸々な答えから始まり、中学校では最近振り返りの時間が少なくなってきた、高校では逆に振り返ることがあってもいいのではないかとの回答がありました。
会場からは「高校ではシートを書かせることはしていなくてもリプロダクションやサマリーを書かせることで間接的には振り返っているのではないか」という声があがり、金谷先生からは「定期試験は振り返るためにやっている。その頻度での振り返りではだめですか?」と更なる問いかけがあるなど、小中高大の各現場からの意見が聞け、時間が許せばまだまだ広がりそうなお題でした。
「繋ぐ文が出来ないのにつなぎ言葉を教えるのはなんでだろう?」
このお題も、小学校においては相槌シラバスという言葉が飛び出したり、繋ぎ言葉の前に、自分が語れるネタがまず必要。その文と文をつなぐためのものが繋ぎ言葉。と、形に行き過ぎていて矛盾が生じているような例がいくつか挙げられて、改めて現状を思わず振り返ってしまうお話が多くありました。
もしも願いが叶うなら?
ここで黒い仮面をつけた金谷先生…もとい、英語教育大魔神(大魔王?)が登場(笑)
「1つだけ願いを叶えてしんぜよう」「何故それが必要なのか、説明してみよ」
英語教育に関しての1つだけか…と言いつつも出された御三方の願いには、一つ一つ、大きく頷かれた方も多かったと思います。
粕谷「第二言語習得の仕組みを見せてください」
阿野「全ての児童・生徒達が検定教科書を中心として学んでもらいたい」
太田「長期的に見る評価の物差しが普通になってほしい(小学校から始めて高校の終わりで帳尻があえばよい)」
特に阿野先生の願いである検定教科書のお話には会場からも色々な事例があげられ、1つの教科書を何度も繰り返して使う「5ラウンドシステム」の実践校の先生からのお話なども聞けたり、もっと深く掘り下げて聞きたいと思われた方も多かったのではないでしょうか。
他にも会場からは「英語は中1の最初の中間試験では出せる問題がないのに、何故やらなければならないの?」という願いがあがり、場内に聞いてみると実際に「やっていない」という学校が2校もあり、そのうち1校は最初の期末試験も英語は40分間で行うという具体的な事例を聞ける場面もありました。
学習指導要領の改訂?
そして最後の第3部では、金谷先生が願いを3つ(笑)述べられました。
「高1で模試をやるのをやめてほしい」
「学習指導要領を改訂するのをやめてほしい」
「高校の科目割りをやめてほしい」
学習指導要領に関しては「授業を変えたりするのには10年じゃすまない。いいことが書いてあるんだから10年でまた新しいスローガンを掲げたりせず、実現するのに20年くらい使いませんか」「直す必要がある教科は改訂すればいいけど、英語はパス」と、なかなか思い切った発言をされていました。
「主体的・対話的で深い学び」とは?
その後も、複数人が関わる現在の小学校の指導体制の複雑さ、論理的思考力をどうつけていったらよいのか、ディベートについての話など、今の学校現場が求められていることや、それに対する現状についての思い込みや気づきなど、再確認させられる話題が続きました。
そして最後に会場からあがった「深い学びって何ですか?どうしたらいいの?」
これに関しては同様の想いを持つ方も多かったと思われますが、金谷先生の
「主体的・対話的で深い学び」は「教育全体に対して」のスローガンであり、教科によって出来る出来ないの部分はある。「英語科が」やれと言われているわけではない。
という言葉が印象的でした。
英語科で「深く」やらせようとしたら必ず母語が出てくる。浅くも実現出来ていないものを深くすることはできないのだから、まずは英語科は英語が出来るようにしてあげる。自分たちが一番やらねばならないこと、やれることはどこか。「深く」やらなくてもいいわけではないが、三本柱だからと真正面から捉え過ぎず、出来ることをやる、深めるのはちょっと待って、でいいと思う。というようなお話でした。
金谷先生は否定的な意見で最後を締めてしまったとおっしゃっていましたが、会場の皆様のアンケートには、
「あまり気負わず、大切にしなくてはいけないことをやっていこうと思った」
「もっと気軽に考えてもいいのか、と感じられた」
「たくさんの思い込みがあることに気づけた」
「これはこうするもの、という思い込みを捨てて指導していきたい」
といった感想が多く見られ、金谷先生の伝えたかったことは「否定的」ではなく「ポジティブ」に受け止められたようです。様々な気づきがありつつも雁字搦めにはならない、良い雰囲気で明日の授業に向かうことが出来る締めくくりだったように感じました。
他にも、金谷先生の好采配・絶妙な話術、各先生方の本音が、小中高大等あらゆる立場から聞けて満足、有意義だったというご感想を多数いただきました。
因みに、参加者アンケートの中でお答えいただいた「今の英語教育界におけるあなたの興味・関心事」で一番多かった回答が「小中連携」でした。
実際の参加者の指導対象は中学校が半数近かったのですが校種を問わず挙げられていたキーワード。小学校英語の教科化が目前に迫っている今だからなのか、太田先生の願いにあった「長期的な評価のものさし」が皆様の念頭にあったのか…。大喜利で一番多く「座布団」を獲得した粕奴こと粕谷先生から、具体的な小学校のお話が多く聞けたことも要因の一つかもしれません。
今回の大喜利形式のセミナーは、校種を越えて様々な現場の様子や意見が共有できる貴重な場にもなったようです。小中高大を通したこれからの英語教育について、今一度見つめ直す機会になっていたら幸いです。
運営側としても「もっと聞きたい」「時間が足りない」と感じてしまう、濃密な時間となりました。行き届かない点もあったかと思いますが、講師の皆様、ご参加された皆様、ありがとうございました。