小林翔先生のこれからの英語教育を考えるオンラインセミナー「書くこと」


■コーディネーター:小林 翔

 <大阪教育大学特任准教授(前茨城大学助教)


4技能5領域別指導」をテーマとした小中高校の各先生の実践発表を中心に、全5回に渡って行われたオンラインセミナーの様子をご紹介します。今回のセミナーレポートは、コーディネーターである小林翔先生が各回3名の先生方の発表の後にまとめとしてコメントをしていただいた、その内容をベースにリライトしたものです。

 

2021年2月26日開催の第5回目。最終回のテーマは「書くこと」です。

「書くこと」小学校

■講師:古屋 雄一朗 茨城県つくば市立吾妻小学校

小学校の古屋先生の実践です。まずは生徒の書く気持ちを高めるためにゲーム性を取り入れ「テレパシーゲーム」という活動を紹介していただきました。

いわゆる推測させる、予測(予想)させるということです。これはTask-basedの考え方でのguessingやpriming activityとかpre task activityでも取り入れられている内容だと思います。

一体どんな内容だろう、予想してみよう・・・と全員の児童が参加してみたくなるような工夫を取り入れられていて、苦手な子も参加させたい、全員を参加させたいという気持ちが伝わってきました。

また「必然性」を大切にしている、ということ、つくば市の小学校なので土地の特性(外国人が多い、大学など教育機関も多いので)の地域人材を活用しながら英語でコミュニケーションする場面、担任、専科の先生だけでなく色々な人たちと会話する場面を増やしているということでした。またICTを使って様々な外国の小学生たちとのコラボレーション、ここでは同年代の子どもたちとコミュニケーションすることが大切だと聞いていて感じました。
日本のEFLのような環境では、学校の授業以外で英語を使用する機会があまり多くありません。また、ALTの先生がいたとしてもそれは大人の先生です。若い先生もいらっしゃいますが小学生にとっては大人です。でもICTを使って外国の同じ年代の小学生と一緒に英語でやり取りする機会というのは、これまではなかなか実現できなかったのではないでしょうか。同じ年代の子たちとやり取りすること、今回は韓国の小学生に実際に手紙を書いてPDFに取り込んで送って、またそれを書くという、アナログの部分もデジタルの部分に融合させていました。自分の手で書く気持ちの温かさだとかメッセージの思いの大切さが伝わったということでしたが、子どもたちが読みたくなる気持ちを上手に刺激していると思いました。
授業外で自宅に持って帰って一生懸命読んでいる…というリアルな体験をさせるということ、書き手・読み手、相手意識を持った活動が非常に伝わってきました。
またおまけとしてプログラミング、タイピングを活用したアルファベットの文字指導もご紹介していただきました。これも実際の新課程の教科書にも掲載されており、タイムリーな内容でした。アルファベットのタイピングなども非常に大事で、プログラミングスキルも非常に大切になってきます。それを英語の中でも実践されているということで最先端な実践だったと思います。

 

「書くこと」中学校

■講師:岡崎 伸一  目黒区立東山中学校

中学校の岡崎先生の発表です。やはり何といっても技能統合型、今回はもちろん4技能5領域の「書くこと」を中心にお話しいただきましたが、その中でもすべての技能を統合させて指導していくことの大切さが伝わってきました。

岡崎先生ご自身の教員キャリアの中で品川区の小学校での実践経験を踏まえ、現在の目黒区の中学校では小学校の実情(内容や教材、教科書の中身など)を理解して小中連携を意識して指導していく…ここが中1ギャップの解消にもつながり、また児童のスムースな英語学習につながるのだろうと思いました。

また岡崎先生の中では系統立てた指導ということで、フォニックス指導や音声を重視したwriting、ともするとwritingというとただ黙々と書いてしまうことも多いですが、先生の音声を聞いて、そのアルファベットを用いて単語を書いていくような指導、ボトムアップの指導、トップダウンの指導も行っていました。
またsmall stepsで簡単なレベルの文字や単語から書いていく、そしてだんだんと一文レベルに、さらに日記レベルまで書いていく、といったように少しずつ知的負荷レベルもあげつつ行っている実践でした。

さらに考えの再構築という意味で自分が書いたことをペアでシェアする。グループでシェアしてまた自分で考えて、友だちやグループの意見を聞いて自分の意見がどう変わったのかという、think~pair~shareと言われているアクティブラーニングのメソッドと考えの再構築を織り交ぜてくださいました。

 

「書くこと」高等学校

■講師:田淵 香奈子 茨城県立勝田高等学校

最後に高校の田淵先生の実践です。

田淵先生の実践ではとにかく生徒を楽しませる視点を大切に、ライティングの具体的なアクティビティの数々を紹介していただきましたが、生徒同士のコメントのやり取りを「紙飛行機式の手紙」で実践されていました。
どうやって書かせるのか?とにかく書かせるためには授業中にwritingの指導も行いますが、テストの中にもwritingの課題を出題することで、指導と評価の一体化につなげていました。そしてただ書いてごらん、という指導ではなくて書き方のひな形、まず自分の意見を書いてそしてそれをサポートする意見を書き、理由も書いていく。そういったダイヤグラムも示しながら実際に生徒が自分の考えを整理していく、そういった思考プロセスを可視化した指導をされていました。

具体的な生徒のwriting例のワークシートや生徒が書いている例などたくさん紹介してくださいましたので、高校1年生でも書くことを継続し、積み重ねることでこれほどの英文を書けるようになるものだと非常に感心しました。
また生徒のライティングシートは、英語の文字だけではなくかわいく個性豊かな漫画家のような絵を描いて発表活動にもつなげていました。それを友だちやグループで発表するときのヒントや足場掛けとして活用し、自分のスピーキングやライティングの内容を助けてくれる役割にもなっているのではないかと思いました。
生徒の様子や思考の過程まで、はっきり
見える内容でした。

そして最後の素晴らしい紙飛行機のアクティビティは、生徒が学習した内容に対する感想や意見をワークシートに書き~飛ばす~拾って友だちの意見を読み~また書いて飛ばす~という一連の流れで行っていました。読み手が生徒同士でもあるので、読み手や相手を意識したライティングにつながります。飛ばしたいから書く・・・苦手な子でも参加したくなるような仕掛けがあったと思います。


3名の先生とも相手意識を持ったライティング、場面設定や目的が明確であり、日々の授業に書く活動を計画的に位置付けて取り組まれている点等、非常に参考になりました。

 

全5回にわたり小中高の先生方が同じテーマで実践事例を発表するという特徴的なセミナーでしたが、それぞれの実践を続けて聞くことにより、小中高の指導のつながりをイメージすることができました。発表してくださった先生方、ご参加された皆様、そしてコーディネーターを務めてくださった小林先生、どうもありがとうございました。


第1回「聞くこと」

(小)遊佐 真理子 茨城県高萩市立高萩小学校
(中)芹澤 和彦  私立大阪高等学校(元常翔学園中学校高等学校教諭)
(高)千田 享   埼玉県立浦和西高等学校

第2回「読むこと」

(小)松田 佳子 京都聖母学院小学校
(中)正頭 英和 立命館小学校(元立命館中学校)
(高)坂本 幸彦 埼玉県立和光国際高等学校

第3回「話すこと(やりとり)」

(小)北野 梓  大阪教育大学大学院、大阪府富田林市立高辺台小学校
(中)駒澤 正人 千代田区立麹町中学校 
(高)浅野 雄大 神戸市立須磨翔風高等学校

第4回「話すこと(発表)」

(小)米田 理英 麹町学園女子中学校高等学校(元小学校専科教員)

(中)田中 周作 都立武蔵高等学校附属中学校

(高)重野 金美 大阪府立夕陽丘高等学校


※指導者・協力者等の所属はセミナー開催時点のものです。