小林翔先生のこれからの英語教育を考えるオンラインセミナー「話すこと(やりとり)」


■コーディネーター:小林 翔

 <大阪教育大学特任准教授(前茨城大学助教)


4技能5領域別指導」をテーマとした小中高校の各先生の実践発表を中心に、全5回に渡って行われたオンラインセミナーの様子をご紹介します。今回のセミナーレポートは、コーディネーターである小林翔先生が各回3名の先生方の発表の後にまとめとしてコメントをしていただいた、その内容をベースにリライトしたものです。

 

2021年2月12日開催の第3回目のテーマは「話すこと(やりとり)」です。

「話すこと(やりとり)」小学校

■講師:北野 梓  大阪教育大学大学院、大阪府富田林市立高辺台小学校

最初は小学校、北野先生の実践発表になります。今回は「やり取り」ということで大変注目度が高いテーマです。

小学校で新学習指導要領がスタートして、中学校~高校と順次進んでいきます。そしてすべての小中高において学習指導要領に「4技能5領域」別に目標が書かれており、一貫性を持たせた指導ということがKeyWordです。

今までの一方通行型の発信(発表)だけでは、反応~会話のキャッチボールが不十分であったという背景から「やり取り」が追加されています。
そういう中で今回小学校では北野先生が、会話のキャッチボールをすすめるために関連のある質問をしていこう、追加の質問をしていこうというコミュニケーション方略を重要視した発表をしていただきました。

まず先生のモデリングを示すこと、そして子どもたちが「あ、なるほど会話ってこういう風にすすめていくのか」と、わかりやすくモデルを提示する。そして少しずつ少しずつ会話方略、会話を続けていく方法を示しながら会話のキャッチボールの回数が1ターン、2ターン、3ターン、4ターンと増えていくsmall stepsが大切だよ、というメッセージがあり、とても心に響いた内容でした。

「話すこと(やりとり)」中学校

■講師:駒澤 正人 千代田区立麹町中学校

中学校の発表は駒澤先生です。実際に生徒のやり取りの様子のビデオを通して、中学校でも目的、場面、状況に応じた会話を大切にしているということが見て取れました。これも指導要領に含まれている内容ですが、会話をするためには英語だけではなく日本語でも同様、相手に自分が何かを伝えたい、相手のことを良く知りたい、そのメッセージ性があるかどうかというところが一番大切です。

例えば、相手のことを知っているのに相手のことを聞きますか?知らないから聞きたくなる。それが知りたくなるのが会話のキャッチボールです。知ったからこそさらに興味関心が湧く、というメッセージ性が高いやりとりが行われていました。児童生徒のやり取りがなかなか続かないことの原因の一つとして、本当に話したいこと、聞きたいことの内容に合っているかどうか、目的、場面、状況に合ったトピックなのかどうかが重要なポイントでしょう。

中学校の実践では生徒がリキャストしていましたが、これはペアワークの一つのメリットでしょう。1クラス35~40人の教室で教師が全員にフィードバックを与えることは難しいかもしれません。しかしペアワークの数を増やし、生徒同士での教え合い、学び合いを通して生徒のスピーキング力向上につなげていくのだろうと感じました。
あとは内容面に課題があるとおっしゃっていましたが、まずは自分自身のことを話す、パーソナライゼーションの観点は非常に重要だということです。知らない内容のこと、例えば国際連合やEU、戦争、南北問題などを小学生や中学生が話すには、最初は少し難しいかもしれません。でも自分自身の夏休みのことや修学旅行の体験、これからの予定等は自分自身のことですから誰よりも知っています。それを英語に言語化できるかどうかというのは次のステップになるわけです。最後に「書く」というタスクを加えたことで高校の実践に繋がっていくものだと思います。ワークシートも実践的なものをご紹介いただきました。ぜひ、多くの中学校で参考にしていただきたい内容の発表でした。

「話すこと(やりとり)」高等学校

■講師:浅野 雄大 神戸市立須磨翔風高等学校

浅野先生の高校の発表です。授業がシステム化されていて話すことの練習の機会を増やす工夫が見られました。

具体的には、高1では発表を中心としたリテリング、高2ではやりとりを加えたリテリング、高3ではディスカッションまで持っていく。学年単位で少しずつレベルを上げて、知的負荷をかけて行くというように学年単位で取り組んだ非常に素晴らしい実践でした。

また発話の「質」を高める工夫として①フィードバック(自分~相互~教師評価)②ルーブリック(評価表で客観性を持たせる)③書くことで発話を「見える化」することで正確性を高めていく・・・というように活動を考えてすすめておられました。
ルーブリックの中に実際に生徒がコメントする欄がありました。このように言いたかったけど言えなかった、だけど少しずつ言えるようになってきた、これが言語面、内容面、そしてそれが質の向上につながるように思います。
授業というのはスキルの向上というのはもちろん大切です。そういう意味で授業のbefore afterで、どういった表現が、どのような力が、どの程度言えるようになった、使えるようになった、書けるようになった、相手に伝わるようになったということを可視化するためにも、このようなワークシートの工夫というのが非常に参考になるだろうと思いました。


3名の先生とも個性豊かな発表で、小中高のつながりのKey Wordは「目的・場面・状況」でした。そのKey Wordを踏まえ、児童・生徒が自分のことを話すこととしてパーソナライゼーションの視点についてもお話ししていただきました。

話したくなる、話すことの内容を持つメッセージ性レベルの高いやり取りにより、自己肯定感が高まり話す意欲が高まる、という3名の先生方の発表でした。

 

次回は「話すこと(発表)」。

各回セミナーの内容詳細は下記リンクよりご覧ください。


第1回「聞くこと」

(小)遊佐 真理子 茨城県高萩市立高萩小学校
(中)芹澤 和彦  私立大阪高等学校(元常翔学園中学校高等学校教諭)
(高)千田 享   埼玉県立浦和西高等学校

第2回「読むこと」

(小)松田 佳子 京都聖母学院小学校
(中)正頭 英和 立命館小学校(元立命館中学校)
(高)坂本 幸彦 埼玉県立和光国際高等学校

第4回「話すこと(発表)」

(小)米田 理英 麹町学園女子中学校高等学校(元小学校専科教員)
(中)田中 周作 都立武蔵高等学校附属中学校
(高)重野 金美 大阪府立夕陽丘高等学校

第5回「書くこと」

(小)古屋 雄一朗 茨城県つくば市立吾妻小学校
(中)岡崎 伸一  目黒区立東山中学校
(高)田淵 香奈子 茨城県立勝田高等学校


※指導者・協力者等の所属はセミナー開催時点のものです。