プレゼンテーションを取り入れた英語授業⑵


立命館高等学校の武田菜々子先生の授業実践を取り上げたDVD「プレゼンテーションを取り入れた英語授業」の中から、その取り組みについて立命館大学の山岡憲史先生が掘り下げたインタビューを抜粋でご紹介。

前のページではプレゼンテーションを取り入れた授業のねらい留意点をお話しいただきましたが、このページでは、もう少し具体的な指導ステップ題材選択などについてお聞きしました。活動成果や、取り組んだ生徒たちの声、そしてプレゼンテーションに取り組むためのアドバイスなど、ぜひ参考にされてみてください


  • 監修・解説:山岡 憲史(立命館大学 教育開発推進機構 教授)

  • 授業者:武田 菜々子(立命館高等学校 英語科 教諭)

プレゼンテーションの指導ステップ

山岡:先ほどの帯活動のお話と少し重なるかもしれませんが、プレゼンのためには今のような四技能を全てやりながら伸ばしていくことが必要になると思うのですが、基礎的な力、そして基礎的なプレゼンの姿勢も必要になると思います。最初にプレゼン取り組まれた時からどのように積み上げて来られたのかお聞かせください。

武田:SSHの活動で四技能統合output志向型の授業形態ということで四技能が活用できるように、1年生の時に教科書の本文を使用したoutput活動リテリング・プレゼンテーションみたいなことをしています。
2年生になると学習内容を軸としたoutput活動で、皆で同じものを読むのですが、その先の発表内容はこれを元にした少し違うものになります。
3年生で自身の課題研究。理系の研究を行なっている生徒たちですので、完全オリジナルの発表ができるようにと考えています。


3年間の到達目標として、1年生前半はポスターとか図を使用してdeliveryや発音やジェスチャーなど細かいことを教科書の英文を使用して教師が作ったスライドやポスターで発表していくってことですね。で、1年生の後半になったらポスターからスライドに移っていきます。
2年生の前半でもっと発音や十分なdeliveryができるようにして、少し生徒たちのオリジナルスライド、例えばコンクルージョンとかを自分たちで作ってみたりだとか、あと2年生の後半になってくるとさらにその学習内容を発展させた内容について発表することを目標にしています。
この段階を踏んでいくと、3年生で科学研究発表、パワーポイントを使いながらしっかりとした発表ができるかなと思っています。

山岡:1年生から専門的な内容のプレゼンをさせるのではなくて、かなり身近なことのプレゼンをさせながら徐々に積み上げていくというお考えですね

武田:そうですね、私もプレゼンテーションを授業に取り入れ始めた時は、やみくもに、というか、皆で国について調べてみようだとか、適宜トピックを与えて調べ学習をしてそれを発表するみたいなことを行なっていたのですが、その授業を行うにあたってのデメリットをものすごく感じまして。

まず、非常に時間がかかりすぎる。それぞれにスライドを作り、台本を作り、それを教師が添削して。そのスライド作り自体が英語授業なのかどうなのかというのもまた疑問ですし、英語の力を伸ばすのに直結したものではないかもしれないですね。

そして生徒それぞれが違うことを発表しますので、テストに非常に出しにくい。生徒がそれぞれに調べたことをやってくるので、お互い共通の語彙を共有していない。いわば発表者の自己満足に終わってしまって、しっかり台本作りました、頑張りましたで、皆がわからない単語を使って発表してしまって聴衆が置いてけぼり、みたいな。時間はすごく使いますし、生徒たちも発表するという経験は得られるかもしれませんが、最終的に落とし所がなかなか掴めないということが多かったのです。
プレゼンテーションとは何かと考えた時に、やはり発表する生徒がこれを伝えたい、自分しか知らないこのことを皆に伝えたい、という気持ちがまずあって、そして聴衆にとっては新しいことを得られる新しい情報を得られるという楽しい場であるということですね。そして共通の語彙やフレーズを持っていて、お互いにわかる内容をわかる語彙で発表している、お互いにとって楽しいプレゼンテーションの場でないと意味がないなと思ったんですね。


ただそれをやるには時間がかかりますので、生徒たちが本当に発表したいというコンテンツを持つまでは、その発表スキルを鍛えるという面においては、やはり教科書の英文を使用して、それをよく読み、教師がポスターやスライドに落とすことによって生徒がそれを作る時間も削減され、生徒たちはその良質な英文をしっかり読みこんで、文法イディオムなど新しいものも得ながら、それを発表するスキルを身につける。そういう意味では、非常に授業としてやりやすい上に、添削の手間もないということ、あとは共通でテストに出しやすい。テストにはポスターとかスライドをそのまま出して、このプレゼン原稿を書きなさい、というのとかを共通で出せるかなと思います。

プレゼンテーション活動の課題と工夫

山岡:武田先生の授業でいいなと思ったのは、どこでも取り組んでいる音読やリテリングなどをプレゼンに繋げていこうという、そういうお考えかたですね。

そのリテリングの中で生徒たちは既にプレゼン活動をしている。その中で自分なりの方法で伝えようとしている。だから聞く方も同じ内容なんだけど一生懸命に聞いて、この子はこういう表現を使っている、という風にappreciateしながらお互いが聞いている、やり取りをしている。そういうことは普段から強調されているのですか。

武田:リテリングの目標が、リテリングするだけで終わっていてはもったいないですし、それに発表力がつけば本当によいと思いますので、それをいかに相手に聞かせるかということで、ペア活動でも取り組んでいます。

プレゼンテーションの題材の選択

山岡:教科書を使ってリテリングをさせるにしても全ての題材がプレゼンに向くわけではないし、SSHの生徒だからできるだけ理系の題材にしたいけど必ずしもそうでもない。そういう題材の扱いはどうされていますか。

武田:私も一年中プレゼンテーション授業をしているわけではなくて、教科書を使っていく中でプレゼンに起こすのに適切な教材というのが出てくるかと思います。例えば1人称で書かれている物語文や小説は不向きですし、例えば今回(DVDの授業の中で)2年生がやったような説明文。説明文というのはパワーポイントも作りやすいし、プレゼンテーションとして人に何かを説明するという意味では非常に使いやすいと思います。ですから、何かを説明するような文章が出てきた時に、ここは最終的なoutputをプレゼンテーションでやってみよう、ということで1学期にひとつ、1レッスンくらいをプレゼンテーションに使ってやっています。

プレゼンテーションを授業に取り入れた指導の成果

武田:3年間で段階的に力をつけていくというのが大きかったと思うのですが、やはり少しづつ出来ることを増やしていき、生徒が自信を持った段階で次に進み、ちょっと難しいことちょっと難しいことというのをステップを踏んで出来るようになって、最後に大きな研究発表を自分たちが英語で出来たという自信を持たせられたということが一つと、あとは何よりも授業に活気が生まれたというのがすごく大きいと思います。


生徒主体の授業として作り上げやすいということと、生徒が活気をもって活き活きと英語を喋れるようになったということと、それまで「読んでいた」英文が「自分が発信する英文に変わっていくっていう、これはすごく大きかったかなと思います。

 

また、本校はTOEFL ITP®を受けているのですが、3年間のTOEFLのスコアの伸びが顕著なものでした。
プレゼンテーションを主体にした授業を始めた2009年あたりから上位層がググッと増えて来ました。今ではクラスの半数近くが500点に届いています。昔はいなかった上位層がプレゼンテーションを軸とした授業にすることによって生まれて来たということと、最終目標がoutputのプレゼンテーションという意味では、やはり発信力ライティング力にもつながっていますし、大学受験と一見関係ないように思われるかもしれませんが生徒の力は間違いなく伸びていると思います。

卒業生たちもありがたいことに「本当に役に立った」と言ってくれています。社会に出た時に役に立つスキルだと思いますので、それを自分たちは高校時代にやれていたということで、大学に行っても国際学会に行くことに物怖じしない海外駐在するチャンスがあったら自分が行きたいとか、何事にも躊躇しない。
課題研究を自分で英語で発表するという最終ゴールを置いているんですけれども、それをしたことによって自分が何が変わったかというのを生徒に聞いたことがあるんですけど、課題研究を英語ですることによって多くの人に聞いてもらえるからよかったっていうことにプラスして
「自分が世界に出て行こうという意欲が生まれた」と言ってくれていて「自分が思っていることを英語で表現できるようになった、だから自分ももっともっと世界に出て行きたい」「世界に出て行く力が自分には備わったんだ」ということで、卒業生の多くが海外に飛び出していて、国際舞台で活躍しています。それは高校時代にこんな風なことができていたおかげかなと思っています。

プレゼンテーション活動に取り組むためのアドバイス

山岡:高等学校で自分の伝えたいことを英語で発表できた、そしてそれを評価してもらえた、その体験が、生きる力・学ぶ力につながっているということですね。
プレゼンテーションは色々な意味で生徒たちの成長を促すものですが、取り組むとなるとハードルが高いという印象があり二の足を踏む先生方も多いです。少し取り組んでみてもなかなかうまくいかずやめてしまうとか、成果が上がらないという悩みを持たれている方もいらっしゃいます。
どの学校でもプレゼンテーションに取り組むためのアドバイスはありますか?

武田:教師自身がプレゼンテーションを楽しむことかなと思います。私自身、学生時代にはプレゼンテーションをする機会というのはあまりなかったのですが、今の高校生の英語教育をするにあたってプレゼンテーションをやってみようと思った時に、相当練習しました。
最初はスピーチ大会とかを自分がモデルでやってみようかなと思い、震える声で生徒の前でスピーチしてみたこともありました。その後プレゼンテーションを生徒にさせるんだったら、まず自分がやろうと思ってモデルプレゼンテーションを本当に一生懸命練習して、でも授業の時には、まるで今やり始めたみたいな感じでやってみたりとかして。その積み重ねで自分もプレゼンテーションができるようになったのかなって思いますので、生徒も結局一緒なのかなって。プレゼンってやはり場数だと思いますし、練習の量だと思いますし。私も全然プレゼンテーションってやったことなかったですし、もちろん数年前の生徒たちもやったことなかったですし、本当に未知の取り組みだったのですが、教師がモデルを見せて、生徒にあんな風にやってみたいなと思わせて、それを練習させて、自信をつけさせて舞台に上げるというのが大きいことなのかなって思って、まずは先生自身が楽しんでプレゼンテーションを出来るように練習して、先生もできたから皆もできるよね、という風にもっていけると本当に活気のある授業になるのかなと思います。

山岡:先生の授業は本当にテンポがよくて、2時間分の内容を1時間でやっておられるような、それでも決して急がせているのではなくて、生徒たちが一つ一つの活動をよく理解をして、この活動は次にどういう意味があって何のためにするのか、というのをよく理解していることがわかります。ですから生徒たちは何事にも、地味な活動にも一生懸命取り組んでいるのだろうし、先生の話も一生懸命よく聞いて、自分もそうなろうと努力をしているのだろうと思います。そういう意味で先生の授業は、プレゼンテーションのいい道筋を示していただいたなと思います。


決してすごい生徒たちばかりではない、普通の生徒たち。理科は得意でも英語はそれほど得意ではなかった生徒たちも、今は英語で発表することに抵抗がなくなっていて、また英語が大好きになっているように感じました。
まさに英語という教科の中身を通じてしっかりと生徒たちを成長させている姿、とても今日は感動いたしました。ありがとうございました。


英語を使って何をするのか、今学んでいることが自分の将来においてどうプラスに作用するのか。

生徒たちの意欲や、自信につながる活動。

「外国語を通じて、情報や考えなどを的確に理解したり適切に伝えたりすることができる力」の育成が求められている中、まさに数年前によく言われていた「使える英語」を身につけていく理想的な姿の好例です。

小さな実践と細かい指導の積み重ねが大きな成果につながっていく様をご覧ください!

 

「プレゼンテーションを取り入れた英語授業」DVDをご覧になりたい方はこちらから▼▼▼ 

1巻目:プレゼン発表につながるステップアップ授業

2巻目:英語での課題研究発表と質疑応答